道元禅師がおすすめになる「坐禅」。
我々は生まれながらに仏であるにも関わらず、なぜ修行をしなければならないのか?
このような疑問を当時の若かりし道元禅師はいだきました。そして中国へ赴き、そこから如浄禅師と出会い、そこで様々な経験を経て、正伝の仏法を日本にお持ち帰りになられます。
その日本へ帰国する際、道元禅師は「眼横鼻直」という有名な言葉残されます。
我々は生まれながらにして仏です。この世界そのものが仏の世界であり、我々人間もその仏から派生している存在に過ぎないからです。
この世界は仏のみで、この自分だと思っている存在も実は仏であり、すべてがその仏のみで構成されております。
そんな仏の子であるにも関わらず我々が修行しなければいけない理由、ここが肝心です。
世界は仏のみです。自分もその仏であり、つまりこの世界はすべてこの自分とも言えるわけです。そんな仏である我々がこの世界で行うべきこと、それは
自分(仏)が自分(仏)を自分(仏)する
ということです。
スズメがちゅんちゅん鳴くのと同じく、猫がニャーニャーと鳴くのと同じく、我々人間を人間たらしめる行い、あるいは仏を仏たらしめる行い、それが我々には必要となるわけです。
そのためにはスズメが鳴くのと同じように、猫が鳴くのと同じような、人間の正しい行いを持って応えなければなりません。
それが先ほどもいった自分(仏)が自分(仏)を自分(仏)するということ。
それを道元禅師は「仏道をならうというは、自己をならうなり」とおっしゃられたわけですね。
たった1つの自分だけの世界。その世界で自分が自分を自分することが、そのまま生きるということになる。坐禅はつまり言い方を変えれば我々が生きるために必要な呼吸のようなものなのです。
それができた時、我々は初めて本当の意味で生きられるというのです。
普段ただ仕事に追われ、生きている。ほとんどの人がこのような有様でしょう。
しかしそれでは一向に生きていないのと同じだというのを道元禅師はおっしゃられているんですね。
我々は真実に生きるために生まれてきました。本来仏として生まれ、仏として生きていかなければならないのが本当の我々です。
スズメや猫と同じように。
しかし我々はこの仏の世界にいつしか一線を画し、その仏の世界を遠ざけてしまうようになりました。そして本来の我々の目的が見えづらくなってしまったんですね。我々が本来は仏なのだということを誰も気づかす、そして仏として1度も呼吸せずに死んでいってしまう。それが今の人間の実情です。
あるいはざるでなんとかして、仏を掬おうとしているのが今の我々です。しかしそんなことはしなくてもただそのざるを仏の水の中に浸ければいいんですね。それが坐禅なのです。人間活動をやめ、真実の世界に生きる、立ち戻る。本来の姿として生きていくことを可能にする。これが簡単に言えば「坐禅」なのです。
我々はこの「坐禅」を通して初めて真実となるんですね。本来の仏と生きることができるのです。そして仏として生きることができたその時、我々の本当の命が芽生える瞬間であり、我々が生まれてきた目的が達せられる時なのです。
その仏として生きることができるときというのがこの「坐禅」をしている時ということです。
ですから坐禅は仏行と言われ、一寸坐れば一寸の仏の言葉で言っているのはこのことなのです。
「坐禅」は仏行として古くから、捉えられてきました。
この世界は仏のみです。しかし我々がその真実の世界に気づくことはなかなかありません。一般人の方であれば尚更これは難しい気づきでしょう。そして真実に生きられず終わってしまう。
道元禅師はそうであってはならない、本来の生き方、我々が本来の目的を達成するために坐禅を推奨されるわけです。
我々は生まれながらに仏であるにも関わらず、なぜ修行をしなければならないのか?
この答えはこのようにして導かれたのでした。
道元禅師をはじめ、過去の祖師方がこの「坐禅」の実践こそが真実であるとし、数多く実践されてきました。
近年でも「禅ブーム」が流行し、生活の一部にこの「坐禅」を取り入れる方も多くなってきております。
「仏の証明」すなわち「仏行」とも言われるこの「坐禅」。
今回その「坐禅」を自宅でも正しく実践できるように、細かいポイントや坐禅における心構え、そして実際の実践方法について分かりやすく紹介したいと思います。
尚、本記事は 「別冊太陽 道元」監修角田泰隆 平凡社を参考に執筆しています。
この記事を読んで頂ければすぐにでも「自宅」で道元禅師がおすすめになる正しい「坐禅」を実践できます。
それでは「自宅での坐禅の実践法」についてみていきましょう。
こんにちは「harusuke」と申します。大学卒業後、禅の修行道場で修行経験を積み、現在は都内でサラリーマンをしております。
坐禅の前準備、準備するもの
ここでは始めに、自宅で「坐禅」を実践する前準備として、次の6つの項目に分けてみていきたいと思います。
- 場所
- 体調
- 時間・回数
- 坐蒲(ざふ)の用意
- 服装
- 線香
一つずつ見ていきましょう
場所
なるべく静かで暗すぎない部屋で「壁」や写真のように「珊」に向かって行います。
床が「畳」の場合でも、「フローリング」の場合でも問題なく行う事ができます。
坐蒲の白い札が手前に来るように置き、壁から1mほど離して坐ります。
あまり壁に近すぎると圧迫感があるので、場所が狭い場合でも最低50cmは壁から離すようにしましょう。
体調
疲労している時や睡眠不足の時、空腹の時や満腹の時は避けましょう。
坐禅を行う前に食事を取る場合は坐禅開始30分以上前に軽く済ませる程度にしましょう。
時間・回数
初心者の方は一日に一回~二回を目安に坐禅をすると良いでしょう。
また一回は15分程を目安にし、毎日決められた時間に行うと良いでしょう。
慣れてきたら40~50分実践します。ただし体調と相談し、無理はしないようにしましょう。
坐禅の時間を計るには、タイマーや時計を近くに置きます。時計の場合はなるべく文字盤を見ないようにし、あらかじめ時間をセットしておくとよいです。
坐禅中は家族からの影響や仕事などの連絡がないように朝晩の時間帯をえらぶようにしましょう。
またお子さんがいる家庭では、就寝中に行うとよいでしょう。
坐蒲の用意
坐禅を行うための「坐蒲」は仏具店、スポーツ用品店、インターネットの通販で購入できます。
仮にこの坐蒲がなければ家にある座布団を代替えとして使用しても大丈夫です。
坐蒲の厚みは体格や身体の柔軟性によって相応しい高さが異なるため、腰の据わりのよい状態を探りながら各自で調節します。
具体的には、坐蒲の中のパンヤ(白い綿)を抜いたり逆に詰めたり、座布団の場合は二つ折りにしたり、重ねてみたりしましょう。
服装
眼鏡や腕時計、服飾品などをはずし、身体を締め付けないゆったりとした服装で素足にて行います。
寺院や坐禅堂で行う場合は、場所によって作務衣やジャージなどを禁止しているところもありますが、自宅で行う場合はゆったりとした服装であれば基本何でも構いません。
線香や香炉
線香やお香などがあれば、邪魔にならない安全な場所に香炉を置き、坐禅を始める前に点燭し、香炉にさしておくとよいでしょう。
実際の坐り方
準備が整ったところで続いて「坐禅」の実際の「坐り方」をみていきましょう。
以下の項目で解説します。
- 合掌低頭
- 坐蒲を揉む
- 再び合掌低頭
- 坐蒲に腰掛ける
- 坐蒲を調整する
1、合掌低頭
まず坐蒲を手前にして壁側に向かい合掌低頭をします。(45度前後)
2、坐蒲を揉む
次に坐蒲の側面を上にして、体重をかけながら右回しでもみほぐしていきます。もみながら一回転半させて最初の坐蒲の上の面が上にくるようにして置きます。この時、坐蒲の白い札は面壁する壁側を向くようにします。
3、再び合掌低頭
その後その場で自身が回れ右をして、壁に背を向け再び合掌低頭をします。
4、坐蒲に腰掛ける
その後、壁を背にして坐蒲に腰掛け、足を組み(この後記述します)、右回りで坐蒲と一緒に壁側を向きます。
そしてその後は壁に向かって足を楽に組みます。
(なれない内は、足を組んだままでは回りづらく、足を痛める可能性もあるので、坐蒲に体育座りのように腰掛けた状態で回るとよいでしょう。)
5、坐蒲を調整する
壁を向いて坐った状態で、坐蒲の白い札が自分の背骨の位置に来るように、坐蒲を調整します。
足の組み方
坐禅の「坐り方」をおさえることが出来たら足の組み方を見ていきましょう。
足の組み方には次の二つの組み方があります。
- 結跏趺坐(けっかふざ)
- 半跏趺坐(はんかふざ)
「結跏趺坐」、「半跏趺坐」このどちらもが正式な坐法となります。
ご自身に合った無理のない坐り方を選びましょう。
結跏趺坐
あぐらをかいた状態で、右足をひだりももの上に乗せ、次に左足をみぎももの上に乗せます。
半跏趺坐
あぐらをかいた状態で右足のかかとを坐蒲に接するように身体に近づけ、そののち、左足のみを右のももの上に乗せます。
結跏、半跏ともに両膝とおしりの三点で状態をきちんと支えます。もし座布団や床から膝が浮いてしまう場合は、膝の下にタオルなどを敷き、必ず三点で身体をささえるようにしましょう。
また、足の左右が逆の方が組みやすい場合は、それぞれが右でも左でも構いません。
ただし、身体のバランスをとるためにも坐禅一炷(いっちゅう・・・坐禅一回の事。正式には40~50分)ごとに足を組みかえる事をおすすめします。
因みに、ケガなどで足が組めない場合は、椅子に坐って行う事も出来ます。
また身体が硬くて足がももの上まで上がらない場合は、ふくらはぎの上で組みます。それも無理な場合は両方のすねが平行になるようにして床に横たえるか、あぐらで行いましょう。
組んでいる足がどうしようもなく痛くなってきたら、坐禅中でも無理をせず足を組み替えましょう。
姿勢の整え方
足の組み方が分かりましたら続いて姿勢を整えていきます。
姿勢の整え方は以下の通りです。
- 背筋を伸ばす
- 身体を左右に振る
- 手の位置を意識する
- 肩の力を抜く
一つずつ見ていきましょう。
1、背筋を伸ばす
まず先ほどの坐り方を参考に腰を深く入れたら、背筋を伸ばして顎を軽く引きます。
2、身体を左右に振る
掌を上にしてももの上に置き、身体を左右に7、8回振り、始めは大きく振り始め、段々小さくしていきます。
これを「左右揺振(さゆうようしん)」と言います。
そして8回目当たりで丁度中心でとめて、上体を安定させます。
身体を揺らす際には、腰から下は大地に根が張ったようにしっかりと固定し、背骨が腰骨に接している部分を支点にして、メトロノームのように身体を左右に振ります。
3、手の位置を意識する
次に手の位置ですが、「法界定印(ほっかいじょういん・・後程詳しく解説)」を組み、足を組んでいる場合は足の裏の上、そうでない場合は鼠径部(そけいぶ)の位置で、胴体に接しておくようにします。
4、肩の力を抜く
肩の力を抜き、自然に坐ります。
また、身体や頭が前後左右に傾かないように注意し、耳と肩、鼻と臍を結ぶ線が垂直になるようにします。
只管打坐においては「坐相」がすべてと言われる程、この姿勢というのは重要視します。
手の組み方(法界定印の組み方)
続いて、坐禅中の手の組み方についてここで見ていきたいと思います。
まず、右の掌を上に向けて足の上に置き、その上に左手の四指(親指以外)を右手の四指に重ねておきます。
次に、中指の上あたりで両手の親指の先を軽く合わせます。
この時手の形は、正面から見て親指と人差し指が平行になるか、かるい卵型になるように四指の重なり具合を調整します。
これを「法界定印」と言います。
また親指の先は、くっつけるというよりも左右に離すようなイメージで接した方が上体がリラックスします。
脳科学でも指摘されている通り、脳と手は密接な関係があります。
なので法界定印の形には細心の注意をはらうようにしましょう。法界定印が崩れると眠くなって来たり、坐相が乱れたりしてしまう原因になります。
視線の位置
続いて視線の位置についてですが、前方下、斜め45度の角度に視線を落とすようにしましょう。
その際、頭が下がってしまわないように注意しましょう。
あくまでも坐相は崩さず、視線だけを落とすイメージです。
まばたきは普通に自然のままに行いましょう。
よく「坐禅中の目は半目に」という説明を聞きますが、斜め45度の角度に視線を落とせば自然とこの半目状態になっておりますので、特に意識する必要はありません。
呼吸
呼吸に関してですが、まず始めに坐相がととのってから数回、肺の中の空気を八割程度、音がしないように口から静かに吐き出します。
その際、日常の良い思いも悪い思いも全て宇宙に吐き出し、預けるようなイメージで、日常のスイッチを切るようにします。
その後坐禅中は、口を閉じて舌先をかるく上顎の歯の付け根に付け、歯と口を自然に閉じ、鼻から自然な呼吸をしていきます。
坐禅中の心構え
坐禅はよく「無念無想」や「雑念を消す」ものとしてイメージされておりますが、道元禅師のおすすめになる坐禅は、「無念無想」を目指したり、思いを無理に消そうとする必要はありません。
考えが浮かんできたら浮かんできたままに任せ、消えて行ったら消えて行ったに任せます。
ただ「作法」に従って姿勢をととのえ、時間が来るまで坐り続けます。
丁度河原に腰掛けて川面の上を様々な物が流れてくるのを見るように、葉っぱが流れて来たら「あぁ葉っぱが流れているなぁ」と思い、視界から消えて行ったら消えて行ったに任せます。
様々な思いやイメージにとらわれず、流れるままにします。
坐禅の終了の仕方
最後にここで坐禅の終了の仕方を見ていきましょう。
坐禅の終了の仕方については以下の通りとなります。
- 合掌低頭
- 身体を左右に振る
- 立ち上がる
- 坐蒲を揉みほぐす
- 合掌低頭
一つずつ見ていきましょう。
1、合掌低頭
時間が来たらタイマーを止め、その場で坐りながら合掌低頭をします。
2、身体を左右に振る
両手の掌を上に向けてももの上に置き、上体を7、8回左右に振ります。始めは大きく、そして段々小さくしていき、最後の8回目くらいで体の中心にとめます。
3、立ち上がる
その後、坐蒲と一緒に右回りで壁に背を向けて足をほどき、立ち上がります。
この際坐りながら右回りするのが難しいという方は始めに足を解き十分に足の痺れをとってから先ほど始まりのときと同様に体育座りのような形で坐蒲と一緒に右回りするようにしましょう。
足が痺れていると足の感覚がなくなり、思わぬケガに繋がる可能性もあるので十分痺れをとってから立ち上がるようにしましょう。
4、坐蒲を揉みほぐす
立ち上がったらその場で回れ右をして坐蒲の方を向きます。
先ほども説明しましたが、坐禅を始める前と同様、坐蒲の側面を持ちあげて上から体重をかけて坐蒲を一回転半ほぐし、今度は始まりの時とは違い、坐蒲の白い札が手前になるようにして、元の場所に置きます。
坐蒲を揉みほぐす際は、立ったままではやりづらい場合は膝をついて行っても大丈夫です。
5、合掌低頭
最後に壁側を向いて合掌低頭し(45度くらい)、回れ右をして再び合掌低頭して坐禅を終えます。
坐禅を実践してみましょう
ここまでが坐禅の一通りの実践方法となります。
これまで見て来た「準備」と「坐り方」、「坐禅の心構え」や「坐禅の終了の仕方」などの細かいポイントを踏まえたられたところで、実際に「坐禅」を実践してみましょう。
ここまで解説してきた事を踏まえていただければ道元禅師がおすすめになる正式な「坐禅」をご自宅でも実践することができます。
坐禅の開始は自身の好きな時刻から開始し、決められた時間に終了します。(禅道場では全て鐘の音で開始と終了が告げられます。)
終了の時刻はタイマーなどで設定をし、そのタイマーが鳴ったら終了します。
その間はタイマーや時計の時刻は見ないようにしましょう。
コメント